問屋街を“面白がる”交流場、「+PLUS LOBBY」

▽01 エリア“参画”の先輩:唐品知浩さん(合同会社パッチワークス)

出会えて、話せて、飲める場所。そんな東京ではごくありふれていそうなスペースが、これまで日本橋横山町馬喰町問屋街にはありませんでした。そう話すのは、昨年オープンした「+PLUS LOBBY」の企画を担当した合同会社パッチワークスの唐品知浩さん。ここは、外からこのまちに新しい人を呼び込む吸引力をもったハブになりつつあります。中核のコンテンツは「日本橋横山町馬喰町問屋街を面白がる会」。まだ見ぬ可能性を見出すために考え、探り、話すためのセッションです。

聞き手:勝亦優祐
撮り手:ナオミ サーカス
書き手:大隅祐輔


唐品知浩さん

映画とアウトドアとファミリーを掛け合わせた「ねぶくろシネマ」、「いっぴんいち(詳しくは後述)」などを手がける合同会社パッチワークスのアイデア係長。 「+PLUS LOBBY」facebookページ|https://www.facebook.com/pluslobby

実はアンタッチャブルじゃなかった

「+PLUS LOBBY」の全景。テントとキッチンカー、小屋というシンプルな構成ですが、コンクリートのビルが軒を連ねるこの場所で異彩を放っています。
トレーラー型のキッチンカーではお酒やからあげなどの軽食が提供されます。

勝亦:はじめに「+PLUS LOBBY」が立ち上がった経緯から教えて頂けますか?

唐品:この土地はUR都市機構が“買い支え”をしたもので、その活用を横山町馬喰町街づくり株式会社がすることになり、企画・運営者としてお声掛け頂いたのがはじまりです。当初はまだ問屋さんの建物があって、立体駐車場などが隣接していたので、奥行きや広さが全く分からなかったんです。それで空けてみたら、ものすごく奥に細長かった。その時はアスファルトも敷いていなかったので、想像があまりできなかったというのが正直な印象ですね。でも、駐車場の営業が終わる18時以降はその前のスペースも使えますよと言って頂けて、脳内で可能性がかなり広がりました。僕は二毛作が好きで、用途がひとつだけに絞られるのは面白くない。夜になると駐車場前がバーになったりすれば面白いし、駐車場の反対側にある建物の壁に映画などを投影すれば上映会も開けるぞ、と。

勝亦:まち全体に対しての印象はどうでしたか?

唐品:やはり閉ざしている印象はありましたね。アンタッチャブルな感じというか。街づくり会社と協働させてもらっているとは言え、まちに受け入れられているのか、受け入れられていないのか分からなかった。でも、問屋街の人たちと話してみるとみなさんフレンドリー。シャッターが閉まっているお店が多かったり、「(一般の)小売りはしません」と貼り紙されていたりするから、“外”から来る人はその“フレンドリー”なイメージがないと思うんですよね。

「+PLUS LOBBY」に隣接しているビルの壁、という名の余白。夜、ここに映像を投影すれば、雰囲気がより変わりそう。

勝亦:その貼り紙の言葉って拒否の表れなんじゃなくて、ただ専門性が突き抜けちゃっただけですよね。

唐品:そう。ただ小売りの優先順位が低いっていうことでしょう。

勝亦:ただ、中堅問屋の廃業やホテルやマンションなどの乱開発が問題視されるようになって、まち全体、UR都市機構がこのままではマズい、外から人を呼び込んで新しい風を吹かせないと、という危機感、意識を共通してもっていた。だからこそ、唐品さんのところにお声がかかったわけですよね。

唐品:そうだと思いますね。これまでは閉じていたものを開いて、とにかく人を呼ぶという方向にシフトしたっていうことは、それだけ厳しい状況になっているんだと感じました。

このまちの“いっぴん”を考えてみる

勝亦:その呼び込むための装置が「+PLUS LOBBY」だと思いますが、これまで行われたイベントなどに来た方って、どんな目的でいらっしゃっているんでしょう?

唐品:今のところは、何か面白そうなことをやっているから、といった雰囲気ですけれども、これからは問屋さんという存在を一回かみ砕いて、コンテンツに導入してみたいなとは考えています。やはり専門性のある人たちだから、紐解くと絶対に面白いと思うんですよ。例えばタオル専業で問屋事業をやり続けている人なんて、全国的に見てもそうそういない。これからは改めて”丁寧に暮らす”ことについて見直されていくでしょうし、タオルも良いものを買うとか、その良い品質を教えてくれる人は絶対重要になり得るんじゃないかなと。僕たちは「いっぴんいち」というマルシェを以前からやっていて、その名の通り、出店者には一品だけを出してもらうんです。たくさん商品があるなかからひとつしか出せないとなると、何を出せば良いか悩むじゃないですか。そうやって考え直すことが大事だと思っていて。さらには外の人もその人なりの視点でいっぴんを発掘・選別をして評価する。その両方があると、自分たちの魅力の核になっていること分かってきて、さらに成長していくと考えられます。「いっぴんいち」のようなことを日本橋横山町馬喰町問屋街に取り入れても良いかもしれません。

勝亦:なるほど。作り手自身と第三者とのある種の答え合わせもできるわけですね。

唐品:そうそう。また、子どもたちに自分で作ったものを売る体験までさせようと思って、「こどもいっぴんいち」っていうのもやっているんです。なかでも面白かったのが、クイズを売りたいと。クイズって知識だから原価ゼロじゃないですか。それを最初50円で売って、人気が出てくると100円、200円と段々値上がりをしていく。それって商売の基本だなと子供から大事なことを学ばされました。無暗に新しい売り物を作るのではなく、今あるものから絞り込んでいき、売り方を磨いていく方法が面白いと思ったんです。

勝亦:唐品さんがやられている「面白がる会」と完全に繋がりますよね。子どもならではのとてもユニークな発想から生まれたものだと思いますが、大人の観点からすると“いっぴん”と言われて知識を売ろうとはたぶん思わない。価値づけできないと可能性を最初からナシにするのではなく、可能性を見出して面白がってみよう、と。

唐品:面白がるって魔法の言葉ですよね。「面白がる会」は、参加したらすべてを面白がらなきゃいけないっていうルールが自然とできちゃうから、文句を言う人は当然いない(笑)。

ウズウズするほど面白いアイデアと出会うために

「+PLUS LOBBY」は通りに面し開けているのも特長(左)。テントのなか。この場で「面白がる会」などのイベントが行われています。(右)。

勝亦:参加者みんなのスタンスを、会のタイトルだけで決めてしまうっていうのはすごいですよね。

唐品:少し話が逸れますが、都会よりも地方の方に課題がある感じって世の中的なイメージとしてあるじゃないですか。人口減少とか空き家問題とか。でも「面白がる会」って開催地の主が東京で、離れても関東圏内なんですね。そのエリアにも問題はたくさんあるんです。

勝亦:具体的にどういった問題があるのでしょう?

唐品:例えば、神田に大きなタワーマンションができたりして、外から新しい人がそこに住み出す。でもその周辺には神田っ子と呼ばれるチャキチャキの江戸っ子が元々生活をしている。そういう人は上を眺めて、どういう人が住んでいるんだろうと思い、上の人は下を眺めて、どういう商売をしているだろうと思っている。ライフスタイルが違うから、双方の活動時間は合わないし、同じ街に住んでいる存在なのに二分化しちゃうんですね。今回の件然り、そこを繋げる役目を僕はずっとやってきたイメージなんです。

勝亦:集中と資本主義による問題ですよね。開発のスピードが速いですし、今後、さらに広がっていってしまいそうです。

唐品:速い。そして高い。不動産価値が高いから、それに見合う人しか来られないですからね。言わずもがな、日本橋横山町馬喰町問屋街にも言えることです。問屋さんが頑張っていられるうちに、何かを起こさないと開発はどんどん進んでいく。

勝亦:縮小と拡大が悪い感じで絡み合っている、歴史的に見てもなかった希少な事態ですよね、おそらく。その交点となっているのが、このエリア。

唐品:僕たちとしては携わりがいがあると感じています。何とかしてあげたいっていう想いが、これから吸引力になって人が集まってくるはずです。

勝亦:唐品さんって吸引力すごいですよね。常に隣空いていますよっていう感じというか。

唐品:来てくれた人、事を否定しても意味がないと思うんですよ。先ほども言った通り、それをどう面白がるかが大切。例えば、北海道の宗谷岬で演歌を聴いたら、東京で聴くより格好良く感じるじゃない? そのものに相応しい場所を探してあげれば輝くわけです。ただ、「面白がる会」では実現まではしなくても良いと考えています。それが目的ではなく、みんなでアイデアを出して、様々なアイデアを受け入れて、面白いものに出会うことの方が重要です。本当にいいアイデアって出会うとやりたくなってウズウズしちゃう。その気持ちを引き出すための場であり会であって欲しい。でもそれは一回のアイデア出しでは生まれないと思うので、無責任でも良いから、何度でも自分の好きなことや楽しくなることを考えて提案してみる。すると、実際にはできないかもしれないけれども、少なくともこの街に可能性があることが分かり、前向きになってくるはずです。「+PLUS LOBBY」はイベントスペースですので、行われているイベントに是非、“さんかく”して頂きたいです。飲みにきて、顔見知りを増やして街に“さんかく”してもらうだけでも良いですし。問屋さんの苦手な分野などを”かかわりじろ”として、外からの力をお借りし、それを少しずつ埋めていきたい。その橋渡し役を「+PLUS LOBBY」は担っています。もし“さんかく”したいことがあれば、あるいは貸切りたいという方がいらっしゃれば、(冒頭の)facebookページから気軽にご連絡を頂けたらと思います。

編集後記

面白くないという決めつけは、見ないフリをしているのと同じ。仕事を終えた駐車場の無機質な空きスペースがライトアップされ、夜は「+PLUS LOBBY」の交流場のひとつになるというお話は、何ともロマンティックなように思えました。そんな転換の可能性をもっているところは、日本橋横山町馬喰町問屋街にまだまだあるはずです。ガラスの靴がなくても美しかったシンデレラのようなところが。一回履かせてみると、魅力が際立つかもしれません。

―編集・大隅

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