週1開店する「古物の博物館」HYST

▽12 HYST

週1回だけお店を開き、ユニークなヴィンテージ家具や古物を販売しているHYST(ヒスト)。毎週土曜の開店日にお店に通うファンも少なくなく、しかも週1営業なのに毎週品揃えがガラリと変わるという噂に、「勝亦丸山建築計画」の勝亦優祐も興味津々。今回は広報の石浦明莉さんにお話を伺い、発掘された古物の次のステージを作るHYSTの活動から、街の次のステージの作り方を考えてみました。

聞き手:勝亦優祐
撮り手:斎藤拓郎
書き手:瀧瀬彩恵

結果論としてできあがった営業スタイル

勝亦 HYSTが馬喰横山にできるまでの経緯を聞かせてください。

石浦 元々は現在入ってるビルで撮影スタジオとして運営していました。2018年12月からスタジオの2階を使ってHYSTを始めて、その1年後には今の形(2フロア)になっています。

大きなきっかけは、撮影スタジオの備品を手配してくれていた古物商でもある「キュレーター」の存在です。HYSTのキュレーターは解体現場や廃業になった病院や教会などの施設から、目利きで発掘してきた古物を店まで直送してくれる方で、店のキーパーソンになっています。

勝亦 キュレーターが発掘した古物が店頭に並ぶまで、どのようなことが起きるのでしょうか。

石浦 週に1回、大量の古物を乗せた大型トラックが店の前に到着するのですが、発掘場所が毎回違うので量や質、状態や雰囲気もバラバラ。何がどのように入荷されるかは来るまで分かりません。入荷のたびに話し合いながら商品として採用する古物を選んでいきます。販売する前は清掃やリペアを必ず行い、最近はものによっては改造したり複数品を組み合わせることもしています。

勝亦 僕は仕事で古いビルのリノベーションを手がけることも多いのですが、備え付けの棚などそのまま置かれている家具や調度品も多く見つかります。そのまま捨ててしまうことが多くて、そういうのをどこに持っていったらいいんだろう?って。

石浦 そういう時はぜひHYSTへ!基本的にキュレーターが入荷した古物が商品になりますが、最近は個人のお客様から連絡をいただき引き取らせていただくことも多くなっています。

石浦明莉さん

勝亦 HYSTで取り扱われる「古物・ヴィンテージ」にはどのような定義がありますか?

石浦 当店では「経年40年から70年くらい」と定義しています。これより新しくなるとぱっと見て「懐かしい、レトロ」という印象が勝ってしまいますが、40年から70年くらいだと不思議と新鮮さやモダンな印象になります。

勝亦 以前来店したことがありますが、その時と今回で全く店の雰囲気が変わっていますね。SNSの告知もしっかりされているので「この週に行かなきゃダメなレア感」をすごく感じますし、また行こうという気持ちになります。週1営業のスタイルはどのように決めたのでしょうか?

石浦 古物の清掃やリペア、SNS投稿のための写真撮影と編集、そこから売り場レイアウトを作りディスプレイする、という工程をわずか6人のメンバーで運営していくことを考えた時、週1回の開店に備え1週間準備する方法が一番効率的だったんです。だから「週1営業」は結果論ですが、それがお店の個性として注目されているのが嬉しいです。

裏コンセプトは「触れる古物の博物館」

勝亦 今日は古物のクリーニングをされる日ですが、クリーニングを行う際の基準や意識していることはありますか。

石浦 どこに置いてあったんだろうと思うほどススだらけ、どろんこだらけでも「寝室に置けるくらいきれいにすること」です。

古物は新品でないので、購入に一歩踏み出せない方もいらっしゃると思います。実際、そのまま店頭に出す方が運営としても楽です。でもHYSTは「チェア一脚からヴィンテージを」という思いを持って、古物を新たに生活に取り入れたい方にも気軽にお求めいただきたいと考えています。少しでも身近に感じてもらえるよう、購入してすぐお部屋に置けるくらいまで清掃してから販売することを心がけています。

勝亦 問屋街には縦に細長いペンシルビルが多いので、建物の用途を変える際の設計は縦方向の動線が難しいんです。階ごとに部屋を借りようと思うと1階が廊下や通路にならざるを得ず、路上から見ると寂しい印象になるので悩みどころです。その点、HYSTさんは1階の使い方が面白いなと思います。平日はわちゃわちゃとした作業風景が路面に、街に滲み出ていて、土曜日だけパキッと営業する。「仕入れて仕事をする」という作業自体も問屋さんとやっていることはさほど変わらないし、この街にとても合っていると感じます。

古物清掃のようす

勝亦 ディスプレイの仕方も興味深いです。本来の用途を離れて飾られているようなもの、複数の商品が重なっているなど色々で、雑然としている方がかえって親近感が湧きやすい。面白いものを紹介している、というスタンスが空間にも出ています。

石浦 実はHYSTには「触れる古物の博物館」という裏コンセプトがあります。例えばお皿は、最近のものは軽量化されているものが多いのですが昔のものは見た目以上に重かったりします。手作業で作られているとゴツゴツザラザラしたものが多い。古物にはやはり持って触ってみないと分からない魅力があるので、お客様にも「どんどん触ってください」とお声がけしています。あえて商品をごちゃっと置き「何か掘り出し物ないかな」とワクワクしていただくことで楽しんでほしいなと思います。

商品の置き方もユニーク。「椅子でも床に置いておく必要はなく、壁掛けのオブジェとして見せることもあります。ビンテージの自由な楽しみ方を伝えられたら」(石浦)

手垢のついていないワクワク感に惹かれて

勝亦 最初に撮影スタジオとして開業した時の馬喰横山の印象はどうでしたか?

石浦 開業メンバーによると、クリエイターやアーティストがぽつぽつ移り始め、これから街が動いていく空気があったそうです。中心部からのアクセスもいいけどまだ手垢がついていない、あまり知られていない街だったので、何かがあったから来たというより「ここで何かできそうだ」と考えてスタジオを構えたと聞きました。

勝亦 以前取材したKonelさんも僕らもそうですが、具体的な言葉にしづらい「なんかいいな」という魅力がありますよね。好きなお店が近くにあるわけでもないのに、立地的なもの、都市空間から匂ってくる何かがある。

石浦 不思議ですよね。今はカフェも新しく増えてきましたが、建物の外観ももとの問屋だった頃のものを残して使っていたり、真新しくしようとしないことが街を守っているんだなと、個人的に過ごしていていいなと思います。

勝亦 馬喰横山の問屋街では、今後の事業内容を悩んだり議論されてる方も多いようで、HYSTさんはそういう状況に一石を投じるヒントになりそうだと思い着目しているところです。この先お店としての目標はありますか。

石浦 メンバー同士でも目標について話すことはあまりなくて…毎週の振り返りをしたり、小さな目標を定期的に立てたりはしますが、そこからどうなっていきたいという戦略的なものは構えていないですね。開店当初から流れに身を任せてやってきましたし、ビジョンを掲げても結局色々なことが変わっていくので。

勝亦 「SDGs」「アップサイクル」といった言葉を使ったら大きな目標に向かう活動として説明がつきそうなのに、そうしないのが自然体でいいですね。

「街」もそういうことなのかもしれません。今目の前にあるもの、その時の空気や感覚的なもので「合う」「行きたい」と思って足を運んだり、「数ヶ月、数年とりあえずやってみよう」と思う人が集まって、結果論としてひとつの事業や街になっていく。その積み重ねあるのみで、トップダウン的に計画した目標が長期的に続く方が稀なのかもしれません。

石浦 確かにそうですね。変化を定点観測しながらちょっとだけ先の未来を見るくらいが合っているのかなと思います。今あるもの、たとえばお客様個人のワクワク感だったり、そういったものを大事にしていきたいです。

編集後記
ビジネスの現場でも「未来の大目標から逆算して今やるべきことを考える」という考え方が正攻法として挙がることもしばしばですが、この数年間で(もしかしたら今この瞬間も)誰もが「結局次の瞬間何が起きるか分からない」ことを強く実感しているのではないでしょうか。

中長期的な未来の「目標」がなくても、今現在何をするべきかの「ビジョン」が明確であれば自ずと道はひらけていくはず。HYST石浦さんの言葉通り「変化を定点観測しながら」、次に何が来るか分からない状況を味方につけて、目の前の小さなことを楽しみながら積み重ねていく。この軽やかさが街をつくる立場の人々にもあるほど、街の求心力は自然と上がっていくのかもしれません。

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