街の連続性のなかにいかに“関わりしろ”を生み出すか
地域とクリエイティブの関係性を考える

▽08 「未来を実装する“越境クリエイター集団”」株式会社コネル

「未来を実装する“越境クリエイター集団”」を標榜する、株式会社コネル(以下、Konel)。同社は、企業のブランドデザイン、R&D(研究開発)、アート制作を3本柱に、アートとテクノロジーを融合させながら、まさに様々なアイデアをごちゃまぜにこね合わせて出来あがったような、ユニークな作品やプロジェクトを世に送り出しています。

金沢、ベルリン、ベトナムなどに拠点を構え、「越境」を地で行くKonelですが、本拠地は横山町。
このエリアにオフィスを構えて約5年になります。

今回は、そんなKonelの丑田美奈子さん(ライター/プロデューサー/知財ハンター)、加藤なつみさん(感性工学デザイナー/プロデューサー/知財ハンター)、佐藤由穂さん(カルチャーデザイナー)に、勝亦丸山建築計画の勝亦優祐がインタビュー。街の「関わりしろ」を生み出すために、テクノロジーやクリエイティブはどのような力を発揮することができるのでしょうか。


聞き手:勝亦優祐
撮り手:Ban Yutaka
書き手:和田拓也


『アベンジャーズ』のように、ひとも越境する

左から丑田美奈子さん、加藤なつみさん、佐藤由穂さん

勝亦 Konelは「未来を実装する越境型のクリエイティブチーム」を標榜していますが、どのようなチームで構成されているんでしょうか?

加藤 副業を歓迎しているということもあって、本当に多様なメンバーで構成されています。
Konelの社員は約20名、関わってくれている方を含めたら50名以上いるのですが、フリーランスから大企業の社員、インターンシップ生まで様々です。職種も、テクノロジーに強い方もいれば、デザインやアートに強い方もいる。さらにデザイナーでありながらコードも書けるなど、スキルブレンディングされた「越境人材」も非常に多いですね。「私はこの職種だからこの仕事しかやらない」といったメンバーがあまりいません。

例えば、ジョーンズ・ケンジさんというアーティスト/エンジニアの方は、大学時代に自動車や新しい機構や部品を作ったり、音楽・楽器制作など多様です。彼は昨年ベルリンに移住したのに合わせて、Konelもベルリンでのビジネスの準備をしています。

『アベンジャーズ』のように、様々な人材が集まってそれぞれの欲望を形にすることで、“見たことがない未来”を実装していくことを目指しています。

Konelのオフィスには、これまで手がけて数々の実験的なプロダクトが並ぶ
2019年に制作した日本橋料理飲食業組合の青年部 「三四四会」のビジュアル。地元・日本橋との仕事も手がける

問屋街に刻まれた「寛容」のDNA

勝亦 Konelが馬喰町エリアにオフィスを構えることになったきっかけとはどのようなものでしたか?

丑田 スタッフの人数が増え、大きなプロジェクトやプロトタイプを作れる場所(実験場)が欲しくて移転先探しに奔走していたところに、たまたま前オフィス(馬喰町)の物件を紹介してもらったんです。古くてビルが微妙に傾いている味のある物件だったんですが、代表の出村がビビッときたそうで、そのままあれよあれよという間に契約が決まったのがきっかけですね。

勝亦 現オフィスも馬喰横山ということで、いま馬喰横山で働くひとたちにはどのような方が多いと感じますか?

丑田 昔から居を構える方々がいる一方で、クリエイティブを生業にする、自由な感覚を持ち合わせている方がすごく増えていると感じますね。新しいことをやろうとする意欲がとても強く、その一歩をいかに踏み出すかを考えている方が多い。

佐藤 たしかに、固定概念に縛られてない、業種も肩書きも「このひとはこんなひと」と言い切れない方が多いですよね。「渋谷」「銀座」「六本木」ほど街のイメージや色が固定されていないのも、ひとつの理由にあるかもしれないですね。

丑田 加えて「実験しやすい環境」だというのもクリエイターが集まりやすい大きな理由なんじゃないでしょうか。ひとも程よい多さで、建物も狭苦しくないですし、何より私たちのような外の人間や新しいことにとても寛容な文化があると感じます。実験に没頭しやすい環境というか。

オフィスの一角に入居する「キンミライガッキ」の制作エリア

丑田 私たちの会社には、レーザープリンター・レーザーカッターを使用する地下実験場があるんですが、音も匂いもなかなかで「大丈夫かな」とたまに心配になるんですが・・・。でも大家さんも周囲の方々もとても寛容で。「こういう実験や挑戦を気軽にできる場所ってなかなかないよね」と、みんなでよく話をするんです。

佐藤 Konelのビルに入居している写真家さんを伺ったときはコーヒーを焙煎していましたね(笑)。音もすごいんですが、コーヒーの香りもダクトから漂っていていい香りなんです。

勝亦 横山町馬喰町街づくり株式会社の代表・宮入正英さんとお話した際に、「問屋街・商店が集積していた場所なのだから、ある意味隣人の目障りなところ、自分のテリトリーに越境してくるものを受け入れる寛容性やカルチャーがあるんだ」とおっしゃっていたんですが、まさにそうした寛容さというか、異なるものを受け入れるDNAがあるからこそ、いま変化を見せているのかもしれませんよね。

佐藤 昔ながらの東東京の雰囲気や文化が残りつつも、新しいものもある。新旧混在した街だなと思います。新しい一歩を踏み出す働き方をしている方々にとっては、こんなに良い環境はないんじゃないでしょうか。

いまの東京は、働くひとの顔が見えない

勝亦 一方で、東京や企業/クリエイティブと地域の関係性について、課題は何だと思いますか?

丑田 都市部の企業と地域の関係性が切り離されてしまっていることは大きな課題ですよね。誰が働いているかもわからないし、どんなことが起きてるのかも住人たちにはわからない。そういう状態は少し気持ち悪いなと感じてしまいます。東東京の歴史を紐解いてみると、地域の住人と働くひとの関係がとても近かったと思うんです。


勝亦 生活と仕事が地続きになっていますもんね。

丑田 そうなんです。住民が商いをやって、夕方になると子どもが帰ってきて、夕飯の匂いが漂うような。

江戸時代に回帰したほうがいいという話ではなく、働いているひとたちの顔が見えるようなまちづくりが重要だと思います。クリエイションが地域の文化にいかに寄与できるかは、地域の感覚や時間の流れ方も含めて考える必要があるのではないでしょうか。

Konelの現オフィスをいまの場所にした決め手はガラス戸のあるグラウンドフロアが入口に面していることだったんですが、オフィスの入り口を開放して地域の問屋街の人が自由に行き来することで、偶発的な出会いやこれまでにない発想が企業にも地域にも生まれるかもしれない。

私は「関わりしろ」という言葉がとてもすごく好きなんですが、関わりしろ、とっかかりを作っていくことから、地域との関係性が始まるような気がします。

“関わりしろ”のある、「居座れる街」という可能性

勝亦 地域の新しい文化や関わりしろを作り出していくうえで、Konelの領域であるアート、テクノロジー、クリエイティブがどのような役割を担うことができると感じますか?

丑田 どの領域においても、新しいものや変化を受け入れることは簡単なことではありませんし、それが当たり前だと思います。そんなときに、第三者の視点やテクノロジー、クリエイティブは、新しい一歩を踏み出す気づきや体験を得るための重要な道具になると思うんです。

「カオスなところから新しいものが生まれる」というのがKonelの考え方ですから、カオスであればカオスであるほどいいと思っていて。様々なバックグラウンドや職能をもつカオスな私たちの文化が、地域が紡いできた文化のなかに丁寧に溶け込んでいくことで、新旧入り乱れる馬喰町の文化の一端を担う。そんな未来のひとつのきっかけになれたら良いなと思います。良くしていただいてる街の方々への恩返しの意味も込めて。

加藤 私たちはテックカンパニーでもあるので、「こんな技術やアイデア、世界があったのか」と感じられる未知な体験をつくりたいですね。技術、知財、アートって、自分から遠い存在にだと感じてしまうことが多い。それをわかりやすく、体験しやすく設計するときに、クリエイターの力は発揮できるはずです。

加藤 オフィスを地域にひらいて体験してもらうだけでなく、街のなかでランダムに未知な体験をしてもらうこともあっていいですよね。

Konelが制作したインスタレーション作品を街のなかに置いたり、子どもから年配の方まで遊べる公園にKonelや馬喰町のクリエイターが入り乱れて集まる機会をつくるなど、オフィスだけでなく街のなかに関わりしろも作ることができるはずです。

街に住むひと、仕事をしにくるひと、遊びに来るひと──。それぞれがもっと混在し合う空間というか、「居座れる街」があってもいいんじゃないか。そこにKonelが少しでも関わることができたらと考えています。

どのオーガナイザーが誰とどのように話すか、誰と誰を繋げるか、オリエンテーションでは何を話すのか、やる意味は何なのかなど、「自分のオフィス」として愛着を持ってもらうためにコミュニティオーガナイザーがどのようにコミュニケーションをとるべきかの方向性はチームの中で明文化しています。

ある日、Konelが馬喰横山の横山町馬喰町新道通りで集合写真を撮影したことがあったそうです。椅子や脚立を持ち寄ってゲリラ的に始まった撮影会への、商店街のみなさんの反応な意外なもの。「全然撮っちゃって!」「何の撮影なの?」と興味津々な様子に、「こういうことができる場所なんだと驚きました」と、丑田さんは語ります。この取材中のこぼれ話は、まさに地域が連綿と培ってきたDNAを象徴するものではないでしょうか。こうした地域の連続性のなかに企業やクリエイティブはどう関わっていくべきなのか。Konelのみなさんの考えにはそのヒントが散りばめられていたように思います。

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