自走する“街のロビー”の種+PLUS LOBBY

▽23 +PLUS LOBBY(プラス・ロビー)

2024年3月のクローズが決まったコミュニティスペース「+PLUS LOBBY(プラス・ロビー)」。問屋街エリアの一角にこの細長い空間が生まれて3年余り、これまでにさまざまなイベントが開催されてきました。「街のロビー」がさんかく問屋街に残していくものは、そのあとに生まれるものは?企画・運営を担当した合同会社パッチワークスの唐品知浩さん、古田裕さんにお話を伺いました。

<唐品知浩(からしな・ともひろ)プロフィール>
オモシロガリスト/合同会社パッチワークスアイデア係長。1973年東京都生まれ。調布市在住。別荘リゾートネット編集長。映画とファミリーを掛け合わせた野外映画館「ねぶくろシネマ」、建物のお別れ会「棟下式」、+PLUSLOBBY日本橋問屋街などを手がける合同会社パッチワークスのアイデア係長。

<古田裕(ふるた・ゆたか)プロフィール>
アートディレクター/グラフィックデザイナー、合同会社パッチワークスデザイン係長。1974年長野県飯田市生まれ。調布市在住。広告制作会社数社を経て、2015年よりグラフィックデザイナーとして独立(FULL_DESIGN)。同時に、合同会社パッチワークスに参画。デザイン係長として、イベント・デザイン制作全般を手がける。2021年より武蔵野美術大学情報教育センター非常勤講師。

聞き手:勝亦優祐
書き手:瀧瀬彩恵
撮り手:Daisuke Muakami

短期・極狭区画だからこそ生まれた空間

勝亦 以前も「さんかく問屋街アップロード」」では+PLUS LOBBYにこちらの記事で取材させてもらいました。取材当時(2021年2月)はオープンからまだ数ヶ月で、主に未来の活動の展望について伺う形でしたが、改めて立ち上げの経緯から時系列で、ハード面にも触れながら振り返っていただけたらと思います。

唐品 URさん経由で横山町馬喰町街づくり株式会社から「空き地にビルが建設されるまでの一定期間、活用方法を探している」という相談を受けて「+PLUS LOBBY」の企画・運営を担当することになりました。蓋を開けてみたら不思議な形状をした極狭の空き地、しかも当時は一年という期限付き。そこで「最小限の形でやれるなにか」を探るように動き出すことにしました。コロナ禍に海外で流行っていたガラスハウスを建てたら冬でも暖かいだろうという話もあったのですが、結果的に安価なテントを手に入れ、路に面した小屋と一緒に2020年11月にオープン。さらに売上を立てるためには飲食が必要ということになり、翌月からキッチンカーも入りました。

古田 本当はトレーラーハウスを持ってこようとしたんですけど、区画の幅が狭いから道路から運転して入れられなくて、クレーンで釣り上げないといけない。そこまでするのはちょっと(笑)ということで、ちょうどいいキッチンカーを見つけました。僕はそこで2年間ずっと唐揚げを作っていました。

唐品 テントは普通の建物と違って建築法規の確認をとらなくても空間として成立するし、撤収も半日程度で可能です。それくらい街の中に居場所をサクッと作れるのが面白い。気楽さというのは全てに影響してますね。

勝亦 最小限の空間だけど、お酒を売る冷蔵庫、空調などポイントはちゃんと抑えてますよね。水色の暖簾やスナックっぽい看板などグラフィックデザインも効いていて、こういったことが頻繁に開催されているイベントなどのソフト面にも影響していると想像します。

場の主催者になれる「スナック部室」

勝亦 コンテンツの種類や運営体制についても詳しく聞かせてください。

唐品 2023年3月までは僕たちが直接キッチン販売とイベント運営をまわしていました。それ以降は一般の方々が自由にイベントを企画運営する「スナック部室」を開催するスペースとしてテントを提供して、僕たちがサポートする体制に変わりました。この変化は大きかったです。
「スナック部室」はもともとやっていた「大人の部活」のイベントごとのテーマ性の強さ、趣味軸で人がつながる仕組みは変えず、名前を改めて始めたものです。イベント主催慣れしていない人でも「同じ『好き』を会話したい」となった時に、主催者=部長としてイベントを気軽に立ち上げて、開催場所の提供やSNSなどの告知は僕たちも手伝って、部長や参加者は開催場所に行けばドリンクも飲めて、会話する人さえいればイベントが成立する仕組みをモデル化しようと思いました。

勝亦 なぜそのような体制にしようと思ったのでしょうか。

唐品 運営者の僕たちがいなくなった途端に街の活動がまわらなくなったら意味がないじゃないですか。街の人々に任せて動きを作ることが大事なので、その体制を作るための一例です。現在は40名ほどの部長がいて、20程度の部活がアクティブ。それぞれ半月〜3ヶ月に1度活動している状況です。みんな結構面白い企画を持ってくるので、そのまま「いいじゃん」ってOKを出してます。

勝亦 問屋街というエリアイメージを持って訪れたりイベントに参加する方もいるのでしょうか。

唐品 もちろん日本有数の問屋街なので、イメージを持っている方もいらっしゃいます。ただ、スナック部室の利用者に関しては、基本的にはあまり固まったイメージを持っている方はいないと思います。テーマに惹かれて参加する方がほとんどなので。ただ、お客さん・参加者・イベント主催者の中には問屋関係者の方もいます。
あえて多くを説明せず、、夜の暗さや昼間の雑踏もそのまま感じてもらって「街に触れてもらう」ことが大事で。問屋街のような、これまで用もなく訪れる場所ではなかったところにふらっと来れるロビーのような場所が+PLUS LOBBYの役割だと思ってます。

「すごい人」よりも「好きなことへのやる気」

勝亦 部活の内容を聞いてるとかなり面白そうですが、そうやって面白い人が集まったと実感できるターニングポイントのようなものはありましたか。

唐品 部長さんはそれぞれ個性的な方ばかりなんですが、有名人とかである必要はなくて、むしろそうじゃない方がいいとも思ってて。「韓国ドラマ好きなんだけど新しい作品知りたい」くらいの気軽さで、10人程度が入場料数百円で集まってイベントをやれるのがいいなと。やはりイベント主催慣れしていないと、集客を図ったり、スペースを借りたり、数千円の準備経費だけでも負担に感じてしまう方もいます。「好きなことをただ好きだからやる、仲間を作りたい」って思った時に何をすればいいか分からない、そんな方に+PLUS LOBBYのやり方がお手本となる状況があればいいなと思ってます。教えるというより、やってる姿を見せてきたつもりです。

古田 最近エントリーする人は一度部活に参加したりこの場所に来たことがある人たちが多くて、気楽な様子が分かるから「自分も主催できる」という気持ちになるんだと思います。「ただの飲み会じゃないか」と思ってる人もいるかもしれません(笑)

勝亦 なるほど、とにかく肩の力を抜いて楽しむモチベーションありきですね。参加者とのコミュニケーションで心掛けていることはありますか。

唐品 「スナック部室」というブランドは僕たちが用意したものですが、それぞれがやってる中身に関してはあまり注文しないようにしてるかな。バナーのデザインが多少不恰好でも、何かをこちらからお願いすることはないです。カッコつけすぎない。
かっこいいものに対する感度の高さもある一方で、イベントをやる気概を持った人たちの感度の高さもあるわけじゃないですか。わざわざエントリーしてくるモチベーションを持った人たちだから、事前に内容を結構詰めて一緒に作るようにしています。サービスを「与える/与えられる」関係にならないことは意識してます。

古田 何もないけどただ話したい、コミュニティ難民みたいな人たちが新しいタイプの人に出会ってコミュニティを作っていく時、会話の内容よりも会話してる事実の方が大事だったりするので、それを深めていくために趣味軸があるといい。スナック部活は話を深めてコミュニティを作るためのエンジンの役割ですね。

街で人が交流する空間は不可欠

勝亦 唐品さんたちが色んな意味で参加のハードルを下げてるから、+PLUS LOBBYの余白が作られているんですね。敷居の低さ、気楽さがこれまでキーワードに挙げられてますが、逆に大変だったことはありますか。

唐品 集客が難しいことはありますね。「今日は僕ら(唐品さんと古田さん)二人だけだね、唐揚げ食べる?」ってなったり(笑)

古田 イベントとは別に「交流会」もやっていて、コロナ禍でも問屋さんや近隣マンションの住人の方など5〜60人来ました。「イベント」「部活」というとハードルが高かったり囲われるイメージがあるけど、「交流会」と名を打てば入りやすいと感じる方がいることもわかりました。この両軸があるからうまくまわると感じて、以降は毎月開催することになりました。

勝亦 僕もよく+PLUS LOBBYの横を通り過ぎて人が集まっている様子を見ていました。傍目には街へのエントランスのような機能を持った場所だと思っていたのですが、+PLUS LOBBYが最も打ち出しているのはコミュニティの撹拌(かくはん)だったんですね。
3月末にクローズしますが、今後の展望はありますか。

唐品 PLUS LOBBY日本橋は一旦ここで終わりますが(編集注:キッチンカーは3月末で営業終了、「スナック部室」は夏頃まで継続、その後撤収予定)街にロビーを作る活動はどこでも必要で、あってもいい話だと思うので、別の街に移る可能性もあると思います。「スナック部室」はどこでもできる仕組みになっているので、色んな場所で立ち上がったら面白いですね。
さんかくエリアでもいくつか開催場所として思い浮かぶ場所がありますし、街の空いたスペースを使えば、僕らがいなくてもいろんなところで部活をやることは可能だと思ってます。例えば企業オフィス内で昼時にしか使われないキッチンスペースなど、そういう場所の活用のチャンスもあると思います。
街自体に賑わいが分散化していけば大きなイベントにもつながるだろうし、その一歩めとして+PLUS LOBBYがあったのではと思います。

編集後記
+PLUS LOBBYは「最小限の形」から始まったからこそ、この空間に拘らずとも実現できるゆるやかなコミュニティ形成のあり方を広げることができたのだと感じました。とは言っても、やはりコミュニティは人ありき。「何かを楽しみたい!」という熱量を持った人たちの中心で、唐品さんと古田さんが状況を静観しつつも、みんなのやる気が活動につながるよう促す不思議な磁力が(ご本人たちが語る以上に)はたらいていたのだろうと想像します。

《!募集中!》
・3月末のクローズ後にキッチンカートレイラーの譲り先
・+PLUS LOBBYの移転先
詳細はinfo@patchworks.co.jp までお問い合わせください。

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