街にひらかれた「問い」の場 TOIビル

▽13 TOIビル

7月22日、馬喰横山にグランドオープンする複合施設「TOIビル」。クラフト(工芸)を軸に飲食店、物販店、イベントスペース、ワークスペース、スナックで構成された5階建てのビルは、日本橋横山町・馬喰町エリア参画推進プログラム(さんかくプログラム)から生まれました。
今回のインタビューでは、さんかくプログラムの参加者でありTOIビル発起人である株式会社Culture
Generation Japan代表取締役 堀田卓哉さんと、同じくプログラム参加者でTOIビル1階でパティスリー&バル「Saison(セゾン)」を手掛ける河 賢男さんにお話を伺い、街と人との関わりから「問い」を立てるプラットフォームとしてのビル立ち上げの経緯と今後の展望について掘り下げました。

*日本橋横山町・馬喰町エリア参画推進プログラム(さんかくプログラム)
UR都市機構と横山町馬喰町街づくり会社、エンジョイワークスが共同でスタートしたプログラム。新たに事業を始める事業者に、実証実験の場を提供するほか、地域でのコミュニティ形成や情報発信など、事業化に向けた幅広いサポートを行う。「TOIビル」は2021年度に優先交渉権者に選定された事業者の一人、株式会社Culture Generation Japanによる新規事業として発足した。

聞き手:勝亦優祐
撮り手:Daisuke Murakami
書き手:瀧瀬彩恵

偶然実現した「パティスリー&バル×うつわ」

勝亦 まずはお二人の簡単な自己紹介と、TOIビル立ち上げのきっかけとなった「さんかくプログラム」に参加した経緯について簡単にご説明お願いします。

堀田卓哉氏(以下 堀田) 2011年よりクラフト(工芸)をテーマにしたコンサルティングやプロデュースのほか、うつわのサブスクリプションサービス「CRAFTAL」、クラフトツアープログラム「Onland」を自社事業として展開してきました。数年前にはTOIビル近くにあるオフィスビルの上階に事務所を構えました。

堀田卓哉さん

堀田 1年ほど前から、私たちの活動をさまざまな業態をとおして伝える場となる一棟貸しのビルを探していた頃に「さんかくプログラム」を知りました。事業展開するための物件を紹介してもらえるだけでなく、ビルの上階にいた当時はあまり作れなかった地域との関わりを作るチャンスにもなると思い参加しました。
実際ここに移ってきたら、誰かに声をかければイベントなど出来事が立ち上がり、プレイヤーが見つかるなど、色々なものごとに繋がりやすくなって面白くなったと感じています。

河 賢男氏(以下 河) 僕は本業では不動産デベロッパーの仕事をしています。馬喰町にも住んでいて、いくつかリノベーション案件に携わった経験があります。ただこの辺りは夜お酒を飲める場所やスイーツのお店、ケーキやお菓子を手土産として買えるお店も少ない。住んでいる自分が行きたくなるお店がこの辺にあったらいいな、と思いながら物件を探していたタイミングでこのプログラムに巡り合いました。

勝亦 SANGOビルにも飲食店が入居予定だし、MIDORI so.にも1階にカフェがあることで今まで街にいなかったタイプの方が増えた印象があります。この街に飲食店が増えることで生まれる変化は今後もありそうですね。

河 賢男さん

勝亦 河さんが手掛けられる飲食店「Saison」は昼間はパティスリー、夜はバルとして営業予定です。「×うつわ」というアイデアが出てきたのはどのタイミングでしたか?

 偶然プログラムをとおして繋がった堀田さんの事業とマッチしました。しかも堀田さん側が1階に飲食店を入れることを想定していたということなので、もしよかったらぜひご一緒にと。飲食にはうつわが不可欠ですし、偶々ですがありがたいことです。

堀田 現在のTOIビルのかたちに繋がっている構想は初期からありましたが、せっかくやるなら別の誰かと組んでやれたらいいなと。実証実験は「場所はあるのであとはどうぞ自由に」というスタンスだったので、その中で河さんとお互い何をやりたいか話し合い進めていきました。

河 もともと閉まっていたビルが実証実験のために開いたので、街の人も「何かやってる」と興味を持ってくれて。店にはファミリー層をはじめいろんな方が来てくれて、実証実験をとおして食の需要があることも分かり、可能性が見えてきました。堀田さんと同じビルで実証実験をやりながら、うつわを提供いただくコラボレーションの話はついていきました。

堀田 それこそスイーツにうつわを使っていただくのは河さんが初めてでした。最初はボロボロな1階で河さんが徹夜してDIYでカウンターなど作ったなかで、うつわとスイーツだけ輝いて見えた(笑)

取材当時は準備中だった1階「Saison」店舗内

勝亦 想像しただけで渋くてかっこいいですね。TOIビルでお店を営んでいる河さん自身もCRAFTALのユーザーのひとりということになりますが、「スイーツ×うつわ」というと意外な組み合わせのようにも思えます。

河 うつわもスイーツも手作りの一点もので、産地・職人ごとに個体差があります。その点、全く合わないことはないなと。提供メニューもうつわもたくさん種類があるので、さまざまな組み合わせやうつわ自体をお客様に楽しんでいただけるきっかけになれたら。

堀田 確かに最近、スイーツ屋さんがCRAFTALを利用することがちょっと増えてきているかもしれないです。

2階「Onland Store」は同名のクラフトツアープログラムを実店舗化した場。期間ごとに日本各所の産地をフィーチャーした展示販売を行い、クラフトツアーの予約も受け付けるなど産地への導線となる場を目指す。
3階「CRAFTAL GALLERY」ではCRAFTALで取り扱う工芸品を展示。小売や卸しなどの業界関係者だけでなく、一般の方もうつわを手に取ることができる。

「飲食店がエンドユーザー&仲介役」という新しい流通のかたち

勝亦 堀田さんご自身、伝統工芸を軸に活動することになったきっかけはなんだったのでしょうか。

堀田 起業以前は会社員としてコンサルの仕事に従事していました。しかし伝統的な祭りや工芸などに興味を持ち、もう少し手触りのある方法で社会の役に立つことを仕事にしたいと思い、工芸を支援する会社を立ち上げました。

支援には色々な関わり方がありますが、販売をサポートすることが何より求められていることに気づき、CRAFTALの立ち上げにもつながりました。販売をしていく上で、やっぱり問屋さんの存在は大きく、我々もある意味では問屋さんに近い仕事をしていると思っています。

勝亦 CRAFTALを利用しているのは主に飲食店です。具体的にはどういった利用方法があるでしょうか。

堀田 たとえばコース料理は通常どの注文も同じメニューを同じ食器で提供するのですが、最近はあえてお客様ごとに食器を変えていく、新しい価値を作るやり方が増えてきています。我々のサービスがあるからそういったことに店側もチャレンジできます。サービスとして飲食店に提案はしますが、最終的には飲食店側が意思を持って選んでくださり、サブスク期間を経て買い取っていただくこともあります。

勝亦 CRAFTALのコンセプトには、同じ商品を大量に同じ品質で安定供給する問屋さんの機能に、手づくりで個体差がある工芸品特有の性質を絡めて「一点ものの性質とビジネスを両立させよう」という新しい提案が垣間見えます。河さんのような飲食店の方もそういったところにサービスを利用するモチベーションを持っていらっしゃるのかなと思います。

堀田 従来の伝統工芸品の販路は、百貨店や雑貨店、一部のECなどに限られていました。いきなり高価なうつわを買うのはハードルが高いので、サブスクレンタルという方法があれば気軽に試すことができます。
またCRAFTALは「うつわを使用する飲食店がエンドユーザーであり、シェアを広げる仲介役である」という状況を増やすことで新しい流通のかたちを作っています。たとえば飲食店経由で一般のお客様がうつわをCRAFTALオンラインストア上で購入すると、飲食店にも還元が発生します。私たちも一利用客としてユーザーである飲食店に出向き、使用の様子を撮影して職人に報告しているので、そういう意味でも今までと違う関係性が生まれています。


勝亦 職人さんも飲食店も、サービスを供給しながら自分も実はサービスを受けているという斬新な双方向性があるのが面白いですね。飲食店のシェフとお客さんの関係性からうつわが広がっていく仕組みも素晴らしいです。

堀田 かといって既存の流通を壊したり、一人勝ちしようとするつもりはありません。新しい流通のかたちも並走することで新しいパイを開拓しようとしています。
CRAFTAL立ち上げ当初は「レンタルされるとさらに売れなくなる」「取引している問屋から怒られる」といった理由から職人の反対にあいました。しかし問屋さん自体も減っていますし、ただ待っていても注文が来る状況ではなく、実際のニーズが分からず在庫を抱える職人も多い状況の中、快く「騙されたつもりでやってみるよ」と言って下さった数社とともに事業は始まりました。

問屋街で問いを立てながら関係を築く

勝亦 うつわに限らず、このような流通・販売・ユーザーの関係のあり方を真似したいという方は馬喰横山にたくさんいるのではないでしょうか。

堀田 そうなったらすごく嬉しいです。既存の問屋さんを否定するのではなく、自分達のやり方を伝えてそれが問屋さんにとってヒントになり、街全体が盛り上がれば、僕らがここで活動している意味はあります。
TOIビルを基点に多くの方々に関わってほしいです。河さんとの関係もそうですが、それぞれがTOIビルに関わりながら役割や居場所を見つけ、行動を起こせるスペースにしていきたいという気持ちはずっと持っています。顔の見える人たちとこの場所を作っていきたいです。

勝亦 地方から出張に来た関係者が利用できる紹介制のシェアオフィス「CLUB ROOM」(4階)、不定期営業のスナック「QUESTIONS」(5階)も、ビルの外の人々との関わりから生まれる場所ですね。

堀田 QUESTIONSではママ役の方が日替わりで店に立ち「問いを立てる」ことになっています。たとえば先日は、2階で山形展を開催していたことにちなみ山形のローカルプロデューサー(ものづくりやクリエイティブで地域を盛り上げる人)に「山形県新庄市をなんとかしたい」をテーマに話していただきました。各階で業態は少しずつ異なりますが、こうやってビル全体でつながりあえる動きも作る予定です。
もちろん、馬喰横山に関する問いを立ててくださる方も歓迎です。地域でもこのような問題提起やそういったイベントを開催している問屋出身のメーカーも少なくないので、今後も盛り上がっていけるはずです。

河 7月22日グランドオープンの際は街の人や子どもも来やすいイベントを開催予定です。それを経てより街の人に受け入れてもらえるといいですね。

勝亦 一棟貸しの複合ビルであることで、活動が街に対して「顔」を持ち、外の方々がビルの主宰者と肩を並べて関わりを生んだり、ビルの外にさらに関係がひらかれていく。そんなTOIビルを中心とした内外の動きが今後とても楽しみです。

編集後記
TOIビルは各フロアのテナントが別個で独立しているわけでなく、フロア同士が流動的につながっています。「産地&東京・馬喰横山」「職人&問屋&使い手」「ものづくりの背景&カタチ」・・・さまざまな関係性が可視化され、人々の関わり方もいろいろ。「交流する」「働く」「産地に足を運ぶ」など、ビルの中でも外でも実際に行動を起こしていくきっかけがたくさんあります。

その大事な源になるのは、インタビュー中に堀田さんも何度か仰っていた「相手の顔が見える」ということなのでしょう。TOIビルはCulture Generation Japanの活動が具現化され街に対して「顔」を持つ場であり、同時にその前後にいる大勢の人々の顔も見える交差点として始まったばかり。今後どのような動きや影響が広がっていくか注目です。

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