組み合わせることで、人と街と繋がる sauna OOOの試み

▽18  sauna OOO

2022年、東日本橋に誕生した、コミュニケーションサウナ「sauna OOO」。
同じビルに入る働くがととのうオフィス「TheaterWww」、アフターサウナバー「+O+O+O Sauna And Kitchen」と合わせて、一つの複合施設を形成しています。
これらを運営するのは、シアターとゲストハウスを組み合わせた「Theater zzz」(墨田区石原)なども手がけてきた、蒼樹株式会社。なぜサウナなのか。なぜ馬喰町なのか。CEOの包怡萱さんにお話を伺いました。

聞き手:勝亦優祐
撮り手:Daisuke Murakami
書き手:内海皓平

組み合わせることのおもしろさ

―まずは最初に手掛けられた「Theater zzz」について、映画館とゲストハウスを組み合わせるという発想はもちろん、実現して運営までやっちゃう意気込みと行動力がすごいなと思って。経緯を教えてください。

映画館ってすごく居心地がいいのに、夜の間誰もいなくてもったいない。そのまま泊まれるといいな、と思ったのがきっかけです。それを実現するために勉強して、自分の会社を作りました。
会社のコンセプトはすべての人が輝く舞台を作ることです。「Theater」というのは、実は映画館というより、舞台という意味の方が大きいんです。
違う機能を組み合わせると、実はいろいろ難しいことが出てきます。資金調達の時には説明が難しいし、建築の法律の解釈なども難しくなるし、勉強させられました。でもいろいろ混ぜていくのが大事だしおもしろいと思ってチャレンジしています。

植物に囲まれた明るいワークスペース

―日本橋のこの施設はどういうきっかけで?

この建物は、もともとはフロア貸しの雑居ビルで、ゲストハウス、岩盤浴、飲食店などが入っていました。コロナの影響もあり空いてしまって、ビルのオーナーさんに相談を受けて、私たちが一棟丸々リニューアルすることになりました。
この施設では、サウナを軸に、働く場所、飲食する場所を組み合わせることで、近所に住んでる人や働いてる人、いろんな属性の人を集めて、コミュニティを育てていきたいと考えています。

アフターサウナバー「+O+O+O Sauna And Kitchen」では、スパイスや生薬を使った飲食物の提供するほか、サウナコミュニティを育てるイベントも企画されている

―どうしてサウナだったんですか?

オーナーさんはもともとオフィスにしようとしていたのですが、コロナでオフィス需要が大きく変化しました。
リモートワークが進み、働くだけなら家でもできてしまう。ではなんのためにオフィスが必要なのか?と考えた時に、仲間と集まって、ストレスを発散しながら、コミュニケーションをとることができる場所の方が求められるのではないかと思いました。

私はもともとサウナが好きというわけではなかったのですが、会社を一緒にやっているメンバーがサウナ好きで。視察するうちに、サウナにはストレスを発散したり、頭の整理ができたりとか、身体性を伴ういろいろな効果があることがわかりました。
そういうものが求められているのって、すごく時代を反映していることだと思ったんです。世の中で急激に流行ってる理由はあるな、と。でもこれだけいいものを流行で終わらせたらもったいない。そう思ってこの施設の核として取り入れることにしました。

東洋文化を軸に

サウナってフィンランドからの文化と言われますが、日本人の楽しみ方は似ているようで全然違うところがあるように感じました。こんな小さい空間でいろいろ楽しむのって、日本の文化だと茶道がありますよね。サウナって現代の茶室になるんじゃないかと思ったんです。

sauna OOOには2つの貸切サウナがある

―sauna OOOの空間の作り方、例えば植物や、照明や、壁の素材感は、確かに茶室みたいでした。納得です。

私は中国出身で、中国にいたころは何が中国の文化の特徴なのかとかわからなかったけど、日本に来て比べてみると、違うこともあるし、東洋文化として似ているところもある。
例えば、壁で区切らず、可動の家具や建具で空間を作るのは日本の一つの文化ですよね。壁で区切らないから、余白が残るし、いろんなことを組み合わせる可能性が広がると思ってます。
東洋文化や和の要素を軸として、西洋から来たものも東洋なりに置き換えて、発信していくことに関心を持っています。

下町のポテンシャル

―東東京で施設を運営していて、思うことはありますか?

東京でも西の方は文化的に成熟していて、それもいいのはわかるけど、個人的には下町の方が可能性を感じています。日本ならではの文化を感じることも多いです。

マンションに住んでいた時、隣の人とあいさつはしても、それ以上の会話が生まれないのが、すごくもったいないなと思っていました。でも、墨田区の曳舟のあたりに行った時に、近所の人とたわいもない話をして、困ったことがあるとすぐ紹介するとか、そういう関係性が機能しているのを見て衝撃を受けました。

でもそれって、玄関を開けっぱなしの長屋のような家が多い街だからできているという面もあって。今の建築は壁が厚すぎて、なかなかできない。自分のことだけ考えたらどんどん壁を立てていくことになります。本当はもっと壁を薄くなればいいのにと思います。そうじゃなかったら一緒に育てるとか、社会問題も自然に解決できるんじゃないかと。

―日本橋の印象はどうですか?

下町であっても、繋がりを作ろうとした時にどこに行けばいいかわからない、という経験もあります。でも、日本橋では、皆さんの方からやってきてくれるような印象があります。
オープンしてまだ1年経っていませんが、周りの問屋さんやビルオーナーさんとの繋がりがすでにできています。
私自身は実はイベント企画は得意ではないんです。でも、友達をシェアしたり、お互いにイベントに行ったり、ということが自然にできています。

これからの街のシェアのかたち

―サウナのお客さん自体は遠くからいらっしゃる方が多いのかなと思ったんですが、どうですか?

確かにサウナは外からの人が多いですね。
でも、もうすでに100回くらい来ているリピーターの方や、いつもご家族で来てくださる方もいて、そういうお客さんはやっぱり近くの人が多いです。

近所の方とは長い付き合いになると思うので、一番大事にしたいですね。うちのサウナだけでなく、街との繋がりを作ってもらって、いろんな場所をリピートしてくれるといいなと思っています。

―街の人と繋がりを作るためにやろうとしてることはあるんですか?

実はいま、「街ログ」という新しいアプリを作っています。
主な機能はポイントカード機能とSNS機能の2つで、バーチャル空間上で街の情報がシェアできます。
従来のSNSに比べて、より地域に密着していて、ユーザーとの関係が深いのが特徴です。

街の情報をシェアするアプリ「街ログ」

人によって街の楽しみ方って違いますよね。
ですので、このアプリ上では各ユーザーに役割が与えられます。
例えば、新しいお店を開拓するのが好きなのか、人にお店を紹介するのが好きなのか、人から教えてもらったお店に行くのが好きなのか。
役割分担をすることで、いろんな立場の人が街を楽しめるようにサポートできないかと考えています。

―アプリまで作ってるんですね。幅広い。

実際の場所の運営に加えて、アプリのようなツールも使いながら、日本ならでは、下町ならではの繋がりのいいところを引き継いで、今の時代にあった街のシェアの仕方を、もっと広めていけたらと思っています。

編集後記
「問屋街にサウナ」と聞いてはじめはピンと来ていませんでしたが、話を聞けば聞くほど、いまここにあるべくしてあるんだと納得しました。自分の実体験をもとに、日本の文化、下町の文化、そしていまという時代のエッセンスを読み解き、そこに必要なものを軽やかに実現する、洞察力と行動力が印象的でした。包さんはこれからも新しい「組み合わせ」を試し、問屋街に爽やかな風を吹かせてくれることでしょう。

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