ロジラスと巡る馬喰町界隈「路地入門」

▽14 Rojilas

「路地裏をランウェイに見立てるインスタアカウントがある」
その名もRojilas(ロジラス)。2019年から始まったインスタグラム @rojilas で、さまざまな場所とファッションを組み合わせ撮影した写真に映るのは、パリコレモデルの経験もあるニコラス・ダートンさんだ。
「衣服が生まれる繊維問屋街の合間でランウェイウォーク」。さんかく問屋街アップロードにとってこれほどしっくりくる話もありません。
というわけで、今回はロジラスことニコラスさんとともに馬喰町界隈に点在する路地を巡りながら、各所でランウェイウォークを披露してもらいました。馬喰町の路地から見えてくるのは、どんな街の姿でしょうか?

撮り手:斎藤拓郎
書き手:瀧瀬彩恵

狭い場所で人の気配を感じるのが魅力

ニコラスさんの地元は、なんと馬喰町にほど近い人形町。最初に路地の魅力を知ったのも、地元で高校受験の勉強から逃避したことがきっかけでした。

「実家周辺を散歩していた時に見つけた路地に入っていったら『イイなあ路地…』って。癒されて落ち着きました。狭いのに情報量が多いのが面白いし、人の往来や行為の跡、気配を感じるのも魅力です。中学生の頃から歩きまわっているので、人形町エリアに関してはデータベースが出来上がってます(笑)」


ランウェイで着る服は写真に収まった時の全体バランスを考慮して選ぶ。

その後、大学では都市設計・景観のゼミを専攻することになり、路地好きが卒業研究のテーマ「路上園芸」に結実することに。就職後は「好きな路地で何かやりたい」という思いからロジラスとしてインスタグラムで路地裏ランウェイの様子を発信し始めることに。

服を選んだところで、早速街に繰り出して路地の魅力を探りながら実際に歩いていきます。

路地の魅力その1:人柄が出る

最初に着てもらったのは190センチ超の長身によく映える鮮やかな柄シャツ。陽があたりにくい薄暗い路地でもインパクト大。
ニコラスさん曰く「ひと工夫が光る綺麗好きな」SANGOの斜向かいにある三宏堂ビル脇の小さな路地で最初のランウェイを撮影します。

「路地には『そうするか』ってひと工夫が加えられてることが多くて(建物所有者の)人柄が出ちゃうところが面白い。掃除アイテムの置き方はあるあるですね。ここの路地は奥側でタワシが丁寧に置かれている以外はものが少なく、箒の掛け方にも工夫がきいてて綺麗好きなのが分かります。」

ふだんから路地をくまなく観察しているニコラスさんだからこそ分かる「あるある」。それでも表に面した場所にある「自家製水受け」は初めて見たのだそう。

「水を溜めてるのかな?バケツよりも幅と高さがないものを探した結果これに落ち着いたのかもしれません。」さらに奥に入っていったことで分かった〈路地の人柄〉を語るニコラスさん。

「表には見えない建物の裏側、個人宅のベランダに園芸がたくさん置かれていて、楽しむ場所がしっかり切り分けされている。ただ裏は向かいが建物ではないので『路地』ではなくなります。」

表に見え、かつ他者に見られる・共有される意識が「路地をつくる」のかもしれません。

立入禁止マークと揃うポーズ(※許可を得て撮影しています)

次は編集長 勝亦優祐がおすすめする某ビルの裏。

ピカピカ光るライトがランウェイのムーディな演出に
無骨なコンクリートに挟まれた細いアングル、手すりの入り方がエッジの効いた構図に。
その片隅に絶妙な佇まいで置かれたモノたちに、ニコラスさんはもれなく食いつきます。

「何もないところより、こうやってモノが置いてあると路地感ありますね。僕の造語で『捨て鉢』と呼んでいて、道端や公園で拾う捨て猫みたいなものです。これはきっと開店祝いの胡蝶蘭だったんでしょうね。」

他に置かれていたのは観葉植物、まだきれいなコインケース、ガラスの欠片、アイスクリームの容器など。この捨て鉢エリアができるまで、誰がどのようにこの小さな空間と行き来して過ごしていたか想像が無限に膨らみます。

続いてニコラスさんが地図であらかじめ目処をつけておいた路地へ。

路地の魅力その2:ディテール大賞

今回いくつかまわった路地の中でも、とりわけニコラスさんが「ポイント高い!」と食いついた路地はこちら。

一見東京の下町によくありそうな風景ですが、ニコラスさんに言わせれば「ディテールオンパレード」。
興奮のまじる解説とともに詳しく見ていきましょう。

「この雑な物干し竿の支え方、いいですね」物置の上部を有効活用(?)しながら、なんともゆるい角度と接点で支えられる物干し竿から生活感が漂います。

下町の味わいある建物に合わせて主張しない服に衣替え

「どこからが家で一般道なのか曖昧になっていて、生活の様子が見える『半生活空間』もイイです。家の方にその意識はないかもしれないですけど、本当はこの段差の部分までが敷地の境界線なのに、園芸をしたりモノを置くことで敷地を地味に拡大してるんです。」

ということは、この桶のように空中に浮いていればで敷地拡大の範囲に入らず大丈夫…?

「発泡スチロールの中にワイヤーがあってさらに鉢が入ってる謎の組み合わせ、壊れかけの鉢植えもあるあるです。雑草が生えて鉢を突き破って割れちゃうこともあるんですよ。」
都市空間にしっかり野生が存在できるのも路地の強みなのでしょう。

切り株がアスファルト舗装された道のど真ん中にある…と思いきや、植物が勢い余って鉢植えを侵食している様子。ニコラスさんの恩師の造語で「逃げ鉢」と呼ぶのだとか。

「家の中にあった園芸が捨てられてなお、根が成長し続けた結果鉢を割ってはみ出しているのが、逃げ出してるように見えるから。これは割れた鉢を飲み込んじゃってるし、めり込んじゃってるし、かなりレアですね。」

「傾斜のあるところに室外機や鉢植えを置くとき、レンガを置いて水平を保つテクニックもあるある。いかようにでも使えるようなポイントはあります。いやあ、イイですね、ここはポイント高いですね!」

テンションが上がりきったところで、こちらでもランウェイウォークを。

次に向かった路地もディテール力では次点、かつ奥に神社があるというレアタイプ。

生活感ある路地の奥にひっそりと見えるのは、神社の木造囲い
盗難防止用のハシゴチェーンに所有者の律儀さがあらわれています。
ピンクと水色のポップな色合いも狙ったようなおしゃれさ

路地の奥に位置する「亀嶋稲荷神社」、実はもとは当地の名家の屋敷神だったと伝えられています。戦争の紆余曲折を経て、取り残された稲荷祠を有志が整備・維持活動を行って以来、町内守護神として護持されています。毎年神職を招いた神事も行われている地元の由緒ある神社は、現在路地を裏から見守っています。

路地の魅力その3:生活路地vsビジネス路地

人の暮らしが香る住宅街エリアを離れ、飲食店や問屋ビルも立ち並ぶ商業エリアに戻ります。個人宅や商業ビルに限らず、タオルが干してあるのは路地あるあるの模様。

先ほどの鉢植えなど誰もが家に持っているであろうモノが置かれる風景から一転、ガスボンベや光沢仕上げ材の缶がぞろりと並ぶのはニコラスさんにとっても珍しい光景なんだそう。

「路地は個人宅のあいだにあることが多いので、こういったアイテムは会社や飲食店が多い馬喰町ならでは。まさにビジネス路地ですね。」

この先には柵やガードが自然と「腰掛け」になり喫煙所と化した場所が。

「暗渠(あんきょ)がある路地は、もともと人が暮らさず川があった場所を潰してるだけなので、生活系の『溢れ出し』が少なく淡白な場所になりやすくて。だからなのか、自然とよその人がたむろする場所になりやすいです。暗渠系路地あるある」

表通りも路地に見立ててみました。豪華なシャンデリア(商品?)が自転車と共存する光景も馬喰町ならでは。

人形町と馬喰町は距離的にも、東東京の下町という括りでも一見とても似た街のように思えます。今回歩いてみて、ニコラスさんが感じた違いは?

「人形町は同じ下町でこざっぱりした商店街なので、華やかさや他人からの見え方を意識してるところはあると思います。人形町の人たちは、通りによっては『イギリス人が前庭をきれいにするのと同じ感覚』で路地を手入れしているようです。卒業研究の取材でも『この花や植物を買ったから人に見せたいという気持ちでやっている』という声がありました。

馬喰町は見栄を張らず、業務用アイテムなどをそのまま置いてあることが多い。でも外で吊るすための逆フックとか、何かしらDIYして工夫するのは同じです。」

スタンスや場所は違えど、創意工夫を加えて家の中にあるはずの空間を屋外へ拡張していくという考え方は変わらない模様。

今後生まれることはない路地を発掘する

今度は、いわゆる「路地ではない場所」を路地に見立てる試みとして沖メイとさんかく問屋街アップロードのコラボレーションミュージックビデオにも登場する、横山町奉仕会が所有する奉仕会館の上階へ。

「正直路地らしさはないかも…」とあまりしっくりきてない様子のニコラスさん。

「多分、地上じゃない場所にある目線の高さが路地らしくないんだと思います。全面ガラス張りの窓が続く建物も路地にはあまりない。何より、人の行為の跡や気配がないことが大きいかもしれない。中と外の関係が完全に分断されてて、生活感が感じられません。」

確かに、大きなガラス窓だけを見れば開放的なようにも見えますが、締め切られたカーテンで中で何が起きているか一切見当がつきません。確かにこれまで足を運んだ路地には、壁があっても中と外の関係が繋がって見えてくる場所が多かったことに気づきます。

「中の要素が滲み出てきてしまう『溢れ出し』があればあるほど、路地感が強くなって場所として好きになれる気がします。」

なぜこの場所にこれが置かれたのか?所有者はどんな人柄でどんな生活をしてるのか?
路地には、屋外に溢れ出たモノからそんな連想や想像を掻き立てる力があることを逆説的に気付かされる場所でした。

ニコラスさんの視点をとおして路地巡りをした今回。

古くは車通りを想定しない道幅だったため、人がモノを外に運び「溢れ出し」が起こりやすい場所でした。法的な基準が変化した現在、路地は「絶滅危惧種」となっているとニコラスさんは話します。

「幅4メートル以内である路地は、建築基準法上の名称は『二項道路』といいます。でも現在、火災時に消防車が通れない狭さなので『法律違反の道』となります。老朽化した場所にはまだ路地がありますが、今後建て替えや都市開発を経ても「新しい路地」が生まれることはなくてむしろ減ってく一方。ロジラスの活動をはじめた初期に撮った路地も2、3箇所なくなって再開発されてるので。『記録しておく』というよりも見れるうちに見ておきたい、化石発掘するような感覚はあります。」

今後は「非路地」も路地として見立てていくことが増えていくのかもしれません。それは同時に、街の気風を作る一端となるような、建物の所有者の暮らしや人柄が溢れ出す場所も少しずつ減っていくということ。少しさみしい気もします。

カレー屋のそばは近隣住民の自転車の溜まり場。ここに駐輪しているみなさんの生活や生業は壁の向こう側で起きているはず。

問屋街でよく見られるアイテムといえば、商品を詰めたダンボールの山。最後に、問屋街を最も象徴する理想のランウェイショットをおさめることができました。

クールにランウェイウォークを決めてくれたニコラスさんですが、実はこの時一番テンションが上がってました。

ビルの業者の方に撮影許可をもらう時も「いいよ」の一言で進むなど、街の気風があらわれる撮影に。
奥に細長いビルが多い問屋街では、建物の内も外も「路地ランウェイ」として歩くことができそうです。そこに溢れ出すのは、本来壁の向こうに隠れた人々の暮らしや創意工夫、何より下町の商売人たちの温かみある人柄なのでしょう。
今回ニコラスさんと一緒に巡った路地はこちら。皆さんもマップを頼りに路地探訪してみることをお勧めします!

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