デザインリサーチで街を遊ぼう!Town Play Studies in横山町

▽17 Town Play Studies

『「街を楽しくする」を実践的に学ぶ』そんな試みがさんかく問屋街エリアで行われると聞いて編集チームが参加したのが、若き未来の建築家やアーバニスト(都市計画の専門家)を対象とした「Town Play Studies(TPS)」によるクラス。第一線で活躍する建築家とともに「デザインリサーチ」を実践的に学ぶこのプログラムで、最も大事なキーワードになっているのは「PLAY(遊び)」。この街でデザインリサーチと遊びを同時に実践すると見えてくるものごと、「場所との関わり方」について考えてみました。

Town Play Studies(TPS)について
10代の若者を対象にクリエイティブな学びの集積地として各種講座を展開する「渋谷GAKU」が主催る、建築をベースにこれからのまちや都市空間について知り、つくり変えていくための知識やマインドを学ぶクラス。20世紀型の開発重視の都市計画や都市デザインを経て、昨今、都市体験を豊かなものとするための行為として「遊び」をテーマにした都市実験が各地で行われています。TPSでは、これからの空間に対する感性、場に関わる積極性、公共性に対する問題意識などを「都市の遊び」の中で培い、未来の建築家、アーバニストを共に目指します。

プログラム開催概要
【日程】
2月4日:横山町でリサーチ(*取材日)
2月18日:コンセプトメイク
2月23日:ビジュアライゼーション+プレゼンテーション 横山町のプレイ・タウン化計画マップ作成【参加者】
GAKU受講者(高校生2名、大学生9名)
【講師】
海法圭(建築家、海法圭建築設計事務所代表)
川勝真一(建築キュレーター、リサーチャー、RADディレクター)
津川恵理(建築家、ALTEMY代表、東京藝術大学教育研究助手)

聞き手:勝亦優祐
撮り手:Daisuke Murakami
書き手:瀧瀬彩恵

初・横山町を観察してデザインにつなげる

集合場所兼レクチャールームとなる「横山町奉仕会館」の会議室に集まったのは総勢15名。これまでも渋谷パルコを拠点に開講されていたTPSで「都市空間」「公共」「場所」をキーワードにしたプログラムを受けてきたメンバーですが、全員横山町を訪れるのは初めてだそう。ちょっと緊張気味な雰囲気も?

講師の川勝真一さんより、今日&今後の段取りについてオリエンテーションが始まります。「これまでも楽しみながら街を経験して、ちょっと違う角度から街を眺めて新しい街の使い方、ポテンシャルに触れていくということをやってきたかと思います。今日の目的は、『街を楽しくする・面白がる』を学ぶこと。自分以外の誰かにもそういう状態を作り出すために、まずは街をまっさらな目で観察し、フレッシュな視点や気づきをもとに進めていけたら」(川勝)

川勝真一さん

その後は「デザインリサーチ」の基本的な考え方の説明や古今東西の事例紹介が続きます。本記事では特別に「きほんのき」を抜粋してご紹介します。

なぜデザインにリサーチが必要か?

〜創造の端緒は発見にある。発見は着目を変えることに始まる(吉阪隆正)〜

  • 思い込みや偏見を捨てる(現実は小説より奇なり)
    実際に調べてみると予想外のことが起きていたり、潜んでいることがある。そこから新しい考え方、デザインのヒントを見つけられる可能性がある。
  • 正しい「問い」を見つける
    いくらデザインを頑張っても、そもそもの前提条件が間違っていたらデザインがうまく働かないこともある。何をなんのためにデザインするかを正しく設定する必要がある。
  • 持続可能性を高める
    その場所には誰が/何があるか、人々はどんな考えを持ち生活しているかを知ることで、デザインが長く使われることにつながる。既存の人や地域資源のネットワークとデザインをつなげる。


デザインリサーチのプロセス例。
「必ずこの順番を踏まなければいけない」というものではなく、前後を入れ替えたり、行ったり来たりもOK。
リサーチ自体が表現になることもあります。
TPS以前に会議室が使用された際、偶然残されていた街の歴史にまつわる板書き。ここに書
かれていることもデザインリサーチのヒントになるかも?

街の「エレメント」を発掘しに出かけよう

レクチャーの後はさんかく問屋街の白地図を携えてフィールドワークに出かけます。先の吉阪隆正の言葉を借りるなら「創造の端緒」を発掘しに出かける時間といえるでしょう。街の中にある面白いもの、気になったもの、何か使えそうなもの、好きなもの、嫌いなもの、たくさん目についたものを集めて、横山町がどんな要素からできているか、どこにポテンシャルがありそうかを考えましょう。(プログラム概要より)

40分間という限られた時間、参加者は二手に分かれて街に繰り出します。歩きながら気になったモノや場所を、とりあえずスマホで撮影してまわろうとするものの・・・

「全部同じ場所に見える・・・」

初めて訪れた場所への解像度がまだまだ足りず、戸惑う参加者たち。誰かがパシャリと撮影すると、それにつられて同じ場所を撮る人もちらほら。しかし時間が経ち街を歩きまわるにつれ、それぞれの着眼点がクリアになってきたのか写真を撮るポイントにもバラつきが見え始めます。

会議室に戻ってからは参加者のLINEグループに撮影写真を共有し、撮影意図の意見交換会。それぞれの新鮮な着眼点と感想から、さんかく問屋街エリアの日常に溢れているものごとの魅力が再定義されるヒントを垣間見ました。

続いてそれぞれが口頭で発表した街のエレメントの魅力をポストイットに記し、壁にマッピングしていきます。

ランダムに貼られたポストイットが、講師陣の素早いグルーピング作業により整理されていきます。こうして出来上がったのがこちら。

「縦軸:時間」「横軸:スケール」の中にテンポラリー/動くもの/ パーキング(駐車)/ 建物の表面/ 建物/ ノスタルジー/ 敷地割/ 道路8つのキーワードが出てきました。

使い方の種をリサーチする:Yes Signを作ろう

街にあるものを観察して知り、場所への解像度をあげた前半に続き、後半はそれらを活用して街をおもしろくできそうなアクションを考えることに。それらを「禁止サイン(No Sign)」ならぬ「Yes Sign」として表現し、現地を回りながらみんなでやってみましょう(検証です)。(プログラム概要より)

「実現可能性はとりあえず置いておきましょう!」(川勝)

NOと言われていることの「ダメな理由」から自由になり、「その場所だからできること」を肯定的に表現する。これがまさに「遊びのある街の使い方の種」を生むきっかけになることを体感できた時間でした。心なしか、最後のほうになるにつれ緊張していた参加者の表情がとても柔らかくなっていた様子。

場所に対するズレや違和感を前向きに捉える

終了後に参加者の感想を伺いました。

「問屋街という場所に来たこと自体が初めてで、街に置かれてるものも新鮮。建物の高さがある割には小さなお店がたくさんあった」
「浅草橋駅で降りた時から面白い街だと思った。栄えてる場所と聞いていたので渋谷みたいに冷たい雰囲気があると思ったら、温かくて人情がある場所でした」
「他の街にはない細さの道や建物があって独特。平日にも来たい」
「不思議な街。こういう機会がなければ見逃していたことがたくさんあった。他の参加者と話していても、普段だったら気に留めないものが面白く感じられて笑っていた」

最後に講師の川勝さんにも話を伺いました。「2021年の春にもTPS特別講座を横山町で実施したのですが、今回の方が週末にも営業中の店舗が多く、人の活動が表出して、街が動いていました。だから仕事中に道に溢れる『テンポラリー』なモノへの着目が多かったように感じます。
(講座を行う際)観察するだけじゃなくて、街に入り込んだり「ちょっとやってみる」仕掛けをどう作るかは毎回意識してます。他の人とは少し違う行動をとることで、認識にズレや違和感が生まれて、それまで見えてなかったことや客観的な視点が浮かび上がってくる。それが街に関わる一歩を踏み出すきっかけになるのでは」

今回TPSが講座で取り入れた手法やプロセスを参考に、皆さんも身近な場所で「街を遊び」新しい関わり方を発見してみては?

編集後記
わずか4時間足らずでデザインリサーチの基本も抑えながら初めての街を観察し、特徴を捉えた参加者たちから生まれた視点や提案は、荒削りながら(だからこそ)先入観や固定概念のない「楽しい」「面白い」が先行するものばかりでした。しかも、実現可能性は度外視しているのに、もしかしたら実現できてしまうかもしれない?!と思えるものも。あらゆることを肯定する力がある「遊び」は、街のあり方を考えるうえで大事な出発点だと感じました。

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