さんかく問屋街は聖域なのか?
“よそ者”として観察する、さんかく問屋街フィールドリサーチ記

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「さんかく問屋街は、昔から聖域と言われてきたらしい。」

そんな噂を聞きつけて今回この街にやってきたのは、”都市”をテーマに幅広く活動するリサーチユニット・Good News for Citiesの2人。エクスペリエンス・デザイナーの石川由佳子と編集者・キュレーターの杉田真理子による自由研究・表現活動で、「よそ者」として世界のさまざまな都市に滞在しながら、リサーチ、ワークショップ、ZINEづくり、レジデンス活動のほか、国内外から、都市を見る視点を豊かにする情報発信も行っています。

今回は、そんな彼女たちと共に歩いたさんかく問屋街のフィールドリサーチについて、彼女たちの視点でご紹介します。

書き手:Good News for Cities / 石川由佳子・杉田真理子
撮り手:Daisuke Murakami

“よそ者”として街に入る

1月某日、寒さ残る東東京。

このエリアに、通称・さんかく問屋街と言われる特別なエリアがあるという。ここは昔から、活気のある商売の”聖域”として人々に親しまれてきた。三角に囲まれたエリアのなかで、今でも多くの繊維・服飾・雑貨の問屋が活発に商いをしている。

東東京は、西に比べて正直あまり馴染みがない。

だからこそ、この場所が「聖域」と言われる所以は何なのか、ここに人が惹きつけられるのは何故なのか、あの手この手を使って感じとってみたい。外からきた「よそ者」として、私たちらしい視点を持ち込んでみたい。そんな想いで今回、私たちは、さんかく問屋街を丸一日かけて歩いてみることにした。

ある街について知ろうとするとき、リサーチの方法は沢山ある。そのなかでも今回は、さんかく問屋街のために、オリジナルの手法を編み出してみた。私たちが試した手法とその結果をご紹介しよう。

手法1.
街に身体をなじませる、私だけの”ベスポジ”探し

今回私たちと一緒にフィールドワークに参加してくれたのは、さんかく問屋街アップロードのメンバーである勝亦丸山建築計画の勝亦優祐さんと、音楽家の沖メイさん、そして、さんかく問屋街で丸三繊商を営む村上信夫さん。スキルセットも興味関心もバックグラウンドも違うメンバーが揃うことで、多様な視点が得られると考えた。

まず最初に行ったのは、この街に身体を馴染ませるエクササイズとして、自分の居場所(ベストポジション)を見つける「マイ・ベスポジ」ワーク。マスキングテープでしばしその場所を占有し、時間を過ごしてみることで、自分と街との距離を近づけるエクササイズだ。

◉用意したもの
・ワークカード
・マスキングテープ

◉手順
1.この街に身体が馴染むまで止まらずに歩き続けましょう(目安10分)
2.何だか居心地の良い場所や、身体のおさまりがいい場所、心が休まる場所を探してみましょう。ベスポジを見つけたら、マスキングテープで陣取りをしてください(目安10分)
3.陣取りをしたスペースの中に入って(座るもよし、立つもよし)その場所から見える風景や、自分の感 情の動きを感じ取ってみましょう
4.集合し、それぞれのベスポジを紹介

まずは1人で、ひたすら街を歩いていく

マスキングテープで自分の居場所をマーキングしていく

勝亦さんが選んだベスポジは、「工事中だけ立ち現れる、日向ぼっこスペース」。商店街の中心部に位置する、工事現場前の道端だ。「以前ここにあった大きな病院がなくなって、日中は日差しが気持ちよく道に降り注ぐんです」と勝亦さんは話す。

「この場所から、日差しを浴びつつ変わりゆく街の風景を見るのがお気に入りです。」

三角問屋街で実際に商売を営む村上さんは、「ついつい立ち寄ってしまう、お店の軒先」をベスポジ認定した。商売仲間のお店の軒先で、ここを通るといつも、この店のオーナーに呼び止められ、ついつい店先のこの場所で世間話に花を咲かせてしまうという。「この街のいいところは、やっぱり人が面白いところなんだよね」という村上さん。この街に居るからこそ見つけられた、人との関係性の中で成り立つ居場所を教えてくれた。

続いては、メイさんのベスポジにみんなで向かう。私たちを案内しながら、メイさんはズンズンと、問屋街の奥に入り込んでいく。

続昔ながらの屋内問屋街の内部には、日本全国から買い付けにきた人が宿泊できるホテルもある。建物の一角にテラスに通じる隙間があり、ちょうど気持ちよく日差しが当たる秘密の場所になっていた。

最後に、このエリアならではの「さんかく」を感じられる居場所を求めて歩きまわった私(石川)が辿り着いたのは、とあるビルの屋上だった。

見下ろすと、いろんな形の三角の建物や屋根が見える。いろんな向きに歩く人々が、斜めになった道で交差している様子も見える。このエリアらしい風景と人の活動が見渡せる場所を発見できた。

手法2.
パワーグッズに導かれて、”何かが宿っていそうな場所”を探す、聖域レーダーウォーク

ベスポジ探しで身体を街に慣らした後は、街中に潜む、”よく分からないけど何かが宿っていそうな、聖域スポット”を探すワークを行った。

ふざけて聞こえるかもしれないけれど、なんだか分からないけど惹かれてしまう場所や、足が向いてしまう場所など、理論では説明できない「場所の引力」のようなものがあると、私たちは信じている。その場所のストーリーを掘り起こし、可視化してみようというワークだ。

◉用意したもの
・オリジナル探知機
・適度にデコった2本の棒
・適度にデコった振り子
・大地の気脈を読み、土地の吉凶を占うために用いる中国の方位盤・羅盤(らばん)
・額に貼り付けるシール

◉手順
1.オリジナルの探知機・”聖域レーダー”を持って街を歩く
2.“神さまが宿っていそうなスポット”を探しだす
3.なぜそこに神さまが行きついたのか、経緯について議論する
4.逆に、”厄”が宿っていそうなスポットを探すのもあり?

今回はもう一つの仕掛けとして、村上さんの商店からはっぴを拝借し、これを羽織ってワークを行った。「内」のコミュニティが強いさんかく問屋街で、身体的にも「内」に入り込んだ方が、聖域に近づけると考えたからだ。

DIYで作った聖域レーダーが完成!

はっぴも羽織って街へいざ出発。

三角形のエリアの中心で羅盤と振り子を使用して、進むべき方向を探していく。

冷静になってみると、だいぶ怪しい一行。しかしめげずに、さらに周辺を調査していく。

反応したスポットは、全6箇所。それらを全てつなぎ合わせて交わったところに聖域の中心があるのではないかという仮説を立てる。

近くの老舗喫茶店「デルフリ村」で、古地図アプリをみながら、過去に聖域の中心に何があったのかを調べる3人。

聖域の中心地を見つけ、自然と突然走り出す3人。

聖域の中心は壁に阻まれ中には入れなかったものの、近くで記念撮影。

聖域レーダーウォークを通じて感じたのは、さんかく問屋街のエリアに入った途端、内側に帰ってきた安心感があることだった。

周辺の街と地続きにある一方で、このエリアだけはセミパブリックな、半分コミュニティの内部に入り込んだ感覚がするのだ。不思議と聖域レーダーもさんかくの外を出ると内部にアンテナが向かっていくのも面白く、見えない境界が確実にある、そう思わせられる体験だった。

不思議な「内」を生み出す、さんかくの秘密

三角形をしているからこそ、それらが交差する中心が明確にあるというランドスケープが、この街を聖域たらしめた所以なのかもしれない。中心部にいくにつれて、商店の活気も出てくるこの地理的な条件も、ここをある種の聖域=ハレの場所たらしてみているような気がした。

街を理解するためのリサーチ方法は、他にも沢山ある。そして、その街に合わせてカスタマイズしたり、オリジナルでその都度作ってしまうこともできる。街のどこに目を向けて、どう解釈するか、そして楽しむかは自分たち次第。ぜひ、さんかく問屋街を楽しむあなたなりの方法を、見つけてみて欲しい。

フィールドワーク後の振り返りは、Podcastで収録したのでぜひ聴いてみて欲しい。

Good News for Cities

石川由佳子と杉田真理子による”都市”をテーマに幅広く活動するリサーチユニット。自由研究・表現活動で、「よそ者」として世界のさまざまな都市に滞在しながら、リサーチ、ワークショップ、ZINEづくり、レジデンス活動のほか、国内外から都市を見る視点を豊かにする情報発信を行っている。

丸三繊商代表 村上信夫さん

丸三繊商の代表。同社は明治32年(1899年)創業で、事業の皮切りは栃木県の宇都宮。元々は糸卸をしていて、戦後に拠点を東京に。そこから和装の肌着などを扱うようになり、現在はお祭り関係の衣類がメイン。

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